【合併検証報告 2010.08.08】

財政状況及び新市建設計画からみた合併後の福知山市の課題

はじめに

  • 政府主導による平成の大合併が始り-1999年4月。 2010年3月末で、3232市町村→1728
  • 福知山市 2006年1月1日に、福知山市、三和町、夜久野町、大江町が合併。 合併方式は「編入」
  • 福知山市も合併特例債事業をあてにした合併-総額約260億円の合併特例債事業
  • 福知山市でも、合併当時、合併を推進した人の中からも「こんなはずではなかった」との思いの高まり。→「このままでは地域が消えていく」との危機感が強まり→今こそ、合併検証を行い、「ふるさと再生」「持続可能な地域」を考えていくことが必要との思いで検証運動を実施。

 

1.「合併・まちづくり検証運動」に取り組んだ主眼点と調査項目等

(1)「合併・まちづくり検証運動」の主眼点

  1. 平成の大合併とは何だったのか(住民の思いも含めて)
  2. 合併によって住民のくらしと地域はどう変わり、自治体の機能はどうなってきているのか
  3. 以上をもとに、今後、住み続けられる地域づくりの方向を住民自ら考え、進めていくうえでの一つの材料とする。
 

(2)「合併・まちづくり検証運動」の調査項目

  1. まずは全体の基本的なことを調査
    1. 合併前と合併後の財政状況調査
    2. 合併協定項目(新市建設計画)がどうなってきているのか
  2. 旧1市3町、それぞれの状況はどうなってきているのかをアンケートや住民の生の声も集めて調査を進めることとしました

2.合併前後の財政状況からみた福知山市の現状と課題 †

1.三町は財政的に単独での存続は無理→福知山市との合併しか“生き残る道はない”との大宣伝と“脅かし”のなかで合併

  1. 歳入構成だけを見れば三町の財政力は小さいとなる  しかし、財政力の弱い自治体を救済していくため措置されている地方交付税制度や地方債でも「過疎債」該当ということがほとんど触れられていなかった。
  2. 合併にあたっての財政見通しも一般会計が中心(特別会計にはふれず)
  3. 旧三町の合併での財政見通し説明は、「合併しないとどうしようもない」という財政シミュレーションしか示されませんでした。

2.使い道(歳出)での特徴

 

目的別歳出からみた特徴 

 

  • 福知山市  「土木費」「民生費」「公債費」の割合が大。
  • 三和町   「土木費」「04年の総務費」「公債費」の割合が高く、また「民生費」の割合も総じて高い。
  • 夜久野町  「公債費」「農林水産業費」の割合が高い。特に、農林水産業費の割合は他の1市2町と比べても高い。
  • 大江町   突出したものはないが、「公債費」「土木費」「民生費」などの高い。

性質別歳出からみた特徴  

  • 1市3町とも投資的経費が多くの割合を占めている。
  • 公債費の占める割合も高いのが特徴的。公債費では、夜久野町において割合が特に高い。

起債と基金 

  • 市3町とも、基金は減少傾向をたどり、起債残高は増額という傾向。
  • 三町の03年から04年にかけての基金残高の減少は、合併前の“駆け込み事業”と推察

 

3.本当に「市の財政状況は優秀で財政が苦しかったのは三町」なのか

  • 合併前の財政論議は、三町の「財政力の弱さと財政状態」だけが問題にされ、市の財政状況は「健全が当たり前」かのごとく、ほとんど議論されなかった。合併協議のなかでも、「三町は借金を精算してから来い」とも言われたところです。
  • この論法は余りにも狭義であり、全体を見た論議となっていなかったということが浮かび上がる。→なぜなら市の財政運営は、一般会計だけを見て、特別会計は赤字のままという決算もされてきた経緯がある。
  • 1市3町合併を契機に始めた財政分析において、市のこれまでの開発中心の行政が莫大な借金を残し、大変な状況になっていることを明らかにした。合併の際に、「なぜ財政全体をみた論議がされなかったのか」という疑問が残る。
  • 投資的経費と公債費の割合が高い自治体同士が合併したわけですので、合併後の財政運営のあり方について突っ込んだ論議が必要だったと思われます。しかし、持続可能な財政運営についての論議はほとんどなく、旧市を基本にした財政運営が続けられ、このことが財政状況の深刻さに拍車をかける結果となったと言えます。
  • 正確な情報を住民に知らせないまま合併を強行した“国・府主導の合併”だった、ということの表れと見ることができます。

(2)合併後の財政状況は

  1. 開発中心の財政運営だった「市」の財政、財政の苦しさに直結

    右図は、行財政研究会が2008年5月に行った報告会で、平岡和久先生(立命館大学)が紹介されたグラフです。

    類似団体平均と比べて、福知山市の普通建設事業決算が如何に高位平準化しているのかが分かります。

  2. 異常とも言える開発中心の財政運営を物語る特別会計(3つの区画整理事業)
    • 合併後の「財政状況」で浮かび上がってきたのが、公営企業会計、特別会計の苦しさ。

      病院事業会計…豪華新病院建設が招く財政面での困難さ

      区画整理事業…平成19年度決算で財政健全化法の資金不足比率に該当

      平成20年度、21年度で一般会計や基金から多額の繰入

各会計の地方債残高一覧(単位:百万円)

 

年度 一般会計 ガス 水道 病院 国保診療 簡易水道 下水道 農集排 農施設 合計
H17 50,795 2,225 6,562 12,041 9 8,106 16,018 3,932 8,081 107,769
H18 51,997 2,072 6,739 12,214 8 7,892 15,896 4,111 8,004 108,933
H19 50,816 企業会計 20,060 特別会計 35,609 106,481

出所:総務省「財政状況一覧表H17,H18」市財政課「平成19年度決算の概要」

 

(参考資料:平成19年度決算で3会計が資金不足比率に該当)
公設地方卸売市場事業特別会計(法非適)     3132.8%  ※該当
福知山駅周辺土地区画整理事業特別会計(法非適)  100.0   ※該当
福知山駅南土地区画整理事業特別会計(法非適)      53.8   ※該当
石原土地地区画整理事業特別会計(法非適)          14.2

3 合併しても財政状況は何もよくなっていない

  • 「地方交付税」は合併しても減っている ・・P合併すれば合併算定替で保障されると宣伝されましたが、国の三位一体改革等の影響で、旧1市3町時代より減ってきているのが明らかです。
  • 基金と起債も「基金は減り、起債残高は増えている」 ・・P11
  • 合併時の「新市発足後10年間の財政計画」と平成21年3月議会提出の「平成30年までの財政見通し」の対比。
  H22 H23 H24 H25 H26 H27
財政調整基金(都市計画) 2,141 2,180 2,232 2,332 2,914  
(H21.3資料) 2,071 1,015 54 0 0 0
減債基金(新都市計画) 2,715 2,715 2,715 2,715 2,715  
(H21.3資料) 101 121 221 0 0 0

   この大きな違いを正確に分析し、今後の財政運営がどうあるべきかを論じなければなりません。

  合併前に如何にばら色に描いていたか、また正確に財政見通しの論議がされていなかったのではないかの疑問が沸いてきます。

  今からでも遅くない、いや今こそ、合併5年目を迎えた福知山市の財政運営のあり方を住民自らの手で真剣に論議し、行政に提言していくことが必要になっています。

3.新市建設計画(合併協定項目)からみた福知山市の現状と課題

(1)合併協定や新市建設計画ではどのようなことが確認されていたのか 

  • 新市の将来像  

    「21世紀にはばたく北近畿の都 福知山」

  • 理念      

    「定住と交流の活力あるまち」

    「明日を担う創造力あふれる人材育成のまち」

    「人と自然が調和し、すこやかに安心して暮らせるまち」

    「コミュニティ豊かな自立したまち」

  • 新市基本方針  

    ①人・物・情報が行き交う交流・連携のまちづくり

    ②地域の個性と資源を活かす農林業と観光のまちづくり

    ③雇用が広がる産業創造のまちづくり

    ④地域で支えるみんなにやさしい健康・福祉のまちづくり

    ⑤人と自然が共生する安心・安全・快適環境のまちづくり

    ⑥魅力あるまちを創り出す教育・文化のまちづくり

    ⑦住民が主体となる人権尊重・住民自治のまちづくり

    ⑧地方分権社会に対応した行財政効率の高いまちづくり

    人口は「10万人都市」と描いています。

 

(2)新市建設計画はどうなってきているのか  

=進んできたのは行財政のスリム化のみ!=

1 人口減に拍車、街中商店は「シャッター商店街」に 

  • 「人も物も情報も行き交うまちづくり」どころか、人口減少には歯止めが掛からず、市街地商店街の相次ぐ閉店で「シャッター商店街」化が一層進んでいる。
  • 人口減少状況 下表
平成19年と平成22年人口(いずれも2月末
旧市町 H19 H22 増減 増減率
福知山市 69,014 68,261 ▲753 ▲1.09
三和町 4,303 4,101 ▲202 ▲4.69
夜久野町 4,648 4,329 ▲319

▲6.86

大江町 5,558 5,300 ▲258 ▲4.64
全体 83,523 81,991 ▲1,532 ▲1.83
全体の減少率1.83を上回る減少地区(旧市)
惇明▲2.26 大正▲2.30 雀部▲3.22 佐賀▲4.08 庵我▲6.27 下豊富▲2.50 下川口▲3.64 上六人部▲5.46 中六人部▲3.34 上川口3.65 金谷▲6.59 三岳▲8.79 金山▲5.95 雲原▲7.39

全体で▲1.83%

    夜久野町が特に大きな減少

    旧市地域でも三和・大江を上回る減少

    惇明地区西中ノ町 3年間で▲10%

    人口増は、旧市の3地区のみ

  • 雇用・経済状況の悪化、合併の影響などをさらに検証することが必要である。特に、“選択と集中”による行政施策の結果が、一部だけに人口も集中ということにつながっているのではないか。
  • 「地域内外の交流」も、結局は合併により財政も一部への集中が強まり、その他の地域での疲弊に拍車を掛けたと言えると思われる。
  • 地域内外の交流促進として、駅周辺の複合施設「北近畿の都センター」建設をうたっているが、これこそ一部地域だけの財政投入で、これでどこまで人口減少に歯止めをかけ、地域の交流が進むのかまったく明確にされていない。

2 地域の個性と資源を活かすはずの農林業が衰退

  • 「農林業の振興」を掲げるも、市の農林関係決算の占める割合は、大変少ないのが実際。
  • 合併時に三町のきめ細かな農業施策がほとんど廃止された→三町の疲弊に拍車。
  • 地産地産地消にも逆行する学校給食センターの民間委託

3 地域経済は疲弊、雇用悪化は深刻

  • 「雇用が広がる産業創造のまちづくり」を掲げたが、現実は全く逆方向に進んでいる。
  • 産業施策の中心が外部企業参入に頼り、町の中小・零細事業所を支援する施策が十分ではない。福知山は、地方都市には珍しい全国チェーン、量販店の乱立。
  • 経済活動別市町村内総生産額のグラフ(P12)で明らかなように、役場の発注が、地域の経済活動に反映し循環していたが、合併で役場の発注がなくなり、関係業種の疲弊と地域経済循環がなくなり、それが雇用の喪失にまで繋がっている。
  • 雇用情勢悪化に拍車をかける公務部門の縮小(廃止、民間委託)

4 地域で支える健康・福祉のまちづくりというが

  • 「構造改革路線に同感」という京都府政、また、「府と協調」という姿勢の市政のもとで、医療・福祉などが大きく後退し、安心して暮らせない状況になってきている。
  • 医療の問題では、「市に2つの市立病院は要らない」と、大江病院を合併前に民営化を強行。指定管理施設であるにも関わらず、現在も1円の財政支援もしていない。交付税では大江病院の分も市には入っている。
  • “唯一の市民病院”福知山市民病院も、豪華建設のツケで経営状況が厳しい。脳外科の常勤医師は1名で緊急対応は出来ない状態。
  • 高い国保料、介護保険料の引き上げなど福祉分野での後退。
  • 子育て支援でも、合併によるコスト削減にあわせて保育園の統廃合・民間委託。三町では保育料の高騰。学童保育の事業内容後退。

5 安心・安全のまちづくりでは

  • 合併前の台風23号被害、昨年のゲリラ豪雨を見れば、府が土木事務所を統合したことが住民の安心・安全に大きな不安を与えている事が明らかになっている。
  • 自治体消防を担う消防団員のなり手がなくなったり、役場(支所)に職員がいなくなり、昼間火事がおきても「出動できない消防団」の実態など。
  • 不足する消防職員。
  • 公共交通にも大きな問題…一方的に運行委託者を変更。

6 教育・文化のまちづくりでは

  • 教育・文化の面でも、押し付け合併の影響が色濃く出てきている。
  • 合併協定に何ら触れられていないのに突如出てきた「学校統廃合」の問題。コスト論以外の何者でもない学校統廃合
  • 学校給食も、「地産地消」「食育」などを口にしながらも、結局は行政コスト論に終始。大センター化と民間委託の方向だけが既定路線。
  • 伝統ある大江町小学校の「和紙の卒業証書」を公平性が欠くとして廃止してしまった。
  • 地域コミュニティや歴史・伝統を何ら考慮しない公民館統合大江町の地元からは、自治会長、公民館長も巻き込んで反発。
  • 三町体育協会が果たしてきた生涯スポーツ振興の役割を評価せず、受け継ぐ組織もつくらなかったことによる大きな後退。

7 「住民自治」のまちづくりが後退

  • 合併の悪影響の1番目と言っていい「住民自治の後退」と「住民と役場の連携の希薄化」支所は、予算も決裁権限も大幅に制限→住民からみれば「支所は何の役にも立たない」住民活動、地域コミュニティを支援する自治体の役割が発揮できなくなっている。「地域協議会」などの設置に否定的だった府政や市政の意向が大きく影響している。
  • 旧三町の住民が集うところへの市の冷たい仕打ちやくのふるさと公社の破綻、三和荘への支援削減

8 「行財政効率の高いまちづくり」は、結局のところ行財政のスリム化で住民福祉の後退

  • 新市建設計画は  「選択と集中」の強調、「都市間競争に打ち勝つ」
  • 施策展開は    一部への大型公共事業と、住民生活直結部門での財政支出の削減

(3)新市建設計画や合併協定項目からみた課題をまとめてみると

  • 新市建設計画や合併協定からみても、やはり「合併して良くなったと言えることは何もない」ということが結論として言える。
  • 住民の意識の中にも「あきらめ」が出てきているところに、この地域の危険度が高い。
  • 首長や議会など一部の人だけの論議で進められ、住民にはまともに資料提示もなく、自分の地域をどうするかという自治にとって基本中の基本のことに意見も言えなかったことに、大きな過ちを犯してしまったといえる。
  • 今回の合併検証をもとに、住民視線で議論を積み重ね、「今後の福知山のまちづくり」の提言運動へとつなげることが必要になっているのではないか。

4.暮らしの要求アンケート結果が意味するものは

2010年福知山市職員組合実施暮らしの要求アンケート
暮らしの要求アンケート.pdf
PDFファイル 48.2 KB

5、「ふるさと再生」への提案

  1. まず、住民がなぜ「気持ち」まで伏せてしまったのかを論議、検証するとともに、住民一人ひとりがまちづくりに参加できるシステムをつくることが必要ではないか。「地域協議会」「地域自治区」など。
  2. 支所を「底辺部での住民活動を支える」位置付けにすること。

    一定自由に使える予算も含め、一定の権限を支所(住民代表で構成する地域協議会等含む)に与えるべきではないか。

  3. 1市3町にはそれぞれ歴史もあり伝統もある。言い換えれば、それぞれ違う歴史、文化、風土をもっている。それを一律的に統一するのではなく、個々の歴史、文化を尊重し、良いものは全市に広げていくとの認識にたつこと。
  4. 行政が持つ情報を正しく住民に知らせ、行政・住民がともに今後のまちづくりを考えていけるよう、システムも含め整備をしていくこと。
  5. 様々な分野、層で、新たなまちづくりへの運動がはじまっている。それをどうつなげ、大きな流れとしていくか。→まちづくり交流センターのような機能が必要ではないか。
  6. もっと具体的な提案も含め、一杯「案」があると思います。住民が自由に参加できる懇談の場をつくり、「ふるさと再生」提案をまとめていきましょう。

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