「京都大学芦生研究林」視察記・・・課題ひしひし

▲▲▲森は病んでいる▲▲▲

  ******「日本有数の植物群落」食べ尽くす鹿たち   2010.11.2

 10月4日、京都大学研究林(南丹市美山町)のシカ被害の実態を視察し、地域の方々の声を聞きました。メンバーは、京都府有害鳥獣問題研究会(代表:奥村英一・上島裕 )の事務局に府職労代表を加えた6名です。

林床を食べつくした鹿たち

  京大芦生研究林を、「芦生山の家」今井館長の案内で見せて頂きました。

まず目についたのは、林床植物が鹿に食べ尽くされ、森全体の地肌が露出している異様な光景です。最近は少しの雨でも由良川の源流、美山川が濁るようになった、といいます。まばらに生えていたのは、シカの好まないイワヒメワラビ、オオバアサガラ、イグサ等で、この3種を除けば、見るべきものはほとんどありません。かつて群生していたというササ類の群落も全滅状態でした。

  • 写真①の巨木は、幹周り10メートルの桂の保存木。以前、株元に「胸位までびっしり茂っていた」ササはどこにも無く、地肌が丸見えです。
  • 写真②は、かつてここに京都大学の「長治谷作業小屋」があった広場。地面にへばりついたシバだけがわずかに食べ残され、「手入れの行き届いた公園」のようです。
  • 写真④⑤は、鹿の食べない代表的な植物3種。
  • 写真⑥は、研究のために設置された「鹿よけネット」の内と外。鹿食害のすさまじさを見事に示しています。

※写真は左から①桂の巨木(保存木)②長治谷広場と芝③イヌヒメワラビ④オオバアサガラ⑤イグサ⑥鹿よけネットの内と外

 

森は非常事態

 4200ヘクタールの広大な面積を誇る研究林は、「日本有数の豊かな植物群落」とされてきただけに正に激変。一見みどり豊かな森に見えますが、木の実もその芽生えも鹿が食べ尽くし「森の再生」は完全にストップ。林床が裸地化した結果、降雨の度に土砂が流出する非常事態です。

熱い交流も

 地元の方4人から、生の声をお聞きしました。

 美山町でとれた鹿のほとんどを地元で解体して肉をとり、生肉又は加工品として販売している先進的な取り組みと共に、「戦後の植林が鹿、猪増加の出発点」、「行政の対応の遅れが今日の鹿被害の一因」、「周年、必要に応じて駆除可能なシステムがどうしても必要」など鋭い指摘もあり、今後につながる熱い交流になりました。

 印象的だったのは、山間集落の厳しい現実の中で、地域ぐるみでの汗のにじむ取り組みです。それだけに、説得力と迫力のある話が多くありました。

大きな課題ひしひし

  正に森は病んでおり、その要因として林業政策の失敗と農林業の衰退が指摘されているだけに、緊急に対処すべき大きな課題をひしひしと感じさせる視察でした。

    (元府職員、京都鳥獣問題研究会事務局次長 佐藤 誠)

<追記>

  1.  この原稿は、京都府職員労働組合の機関紙への投稿原稿に若干の加筆をしたものです。
  2.  京都大学研究林のことなど(新聞報道などから)
  • 研究林は、京都府の北東部、由良川の源流に位置し海抜355~959m。広大な天然林を有し4,200haの内、約2,000haが原生林。温帯の中でも北方系と南方系の植物が入り交じり、日本有数の豊かな植物相を形成している、とされてきました。それが今では、ニホンジカによる林床の徹底的な食害で見る影もなく、植物はもちろん昆虫も激減しています。

研究林における訪花昆虫の種類数の記録(京都大学による同じ場所での調査)

1984~87年:695種・・・・・2006~8年:63種  

  • 最近の京都大学の研究林についての報告では、「シカは、生態系の維持のため一般にこれくらいはいて欲しい密度の1km四方に5頭位まで減少したが、林床がすっかり裸地化したため現状の半分くらいまで鹿の頭数が減っても状況は改善しなのでは」とさえ言われています。
  • 「シカが森を壊し山を崩す」全国に広がるシカ被害
  • 今年の2月21日、奈良市で「シカが森を壊す、山を崩す?」と題したシンポジウムが開催されました。全国のシカ問題に取り組んでいる最前線の研究者たちが、このようなタイトルでシンポを開催したこと自体が驚きですが、全国で、シカの食害による土壌浸食と土砂崩壊の兆候が見られる、と聞いてもう一度驚きました。九州の各地、四国山脈、紀伊半島の大台ヶ原・大峰山脈、南アルプス南部、神奈川県丹沢山塊、 東京都奥多摩地方等にシカによる裸地化、土壌浸食や山腹崩壊が見られるという。また、インターネットで見られる日本列島の上空写真からも、全国の土砂崩壊を起こしている地点が確認でき、その地域がシカの食害地域と一致するとも報告されました。
  • さらに、最近の四国からのDVD報告でも、シカ食害によって山肌が崩れ「山の形が変わってしまった」との情報もあります。

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